北海道大学大学院理学研究院数学部門/北海道大学大学院理学院数学専攻の概要

数学はよく,諸科学の基礎を支える学問であるといわれます。学部時代は,どうしても数学の伝統的かつ基礎的な面に触れる機会が多いせいか,数学は過去の学問であるかのような印象をうける方も多いのではないでしょうか。数年前の講義で,1991年に発表された定理を紹介したところ,何人かの学生が、数学はオイラー(1707年‐1783年)とかガウス(1777年‐1855年)といった人達によってほとんど完成されてしまった学問かと思い込んでいたので驚いた,と素直な感想をレポートに書いていました。確かに数学には長い歴史があります。と同時に,現在も大きく進歩発展している学問です。世界各国で学術誌が年々創刊あるいは刷新され,各地で国内外の研究者を集めた会合が頻繁に開かれています。 (上図 オイラー、下図 ガウス)

諸科学の進展により新しい数学が待望されています。逆に,数学の進展と共に新たな視点を諸科学に与えることもあります。注目している対象を,数学的表現で定式化しそれを解明してゆくことで,多くの新しい数学の分野が生まれてきました。それは,例えば現代物理学の発展と,代数幾何学微分幾何学,トポロジー関数解析学,微分方程式,代数解析学確率論,力学系等におけるいくつもの分野の成長との関係に見られます。そしてこのようにして生まれた分野は,たいてい荒削りなので,体系を数学的に整理し,理論の本質を探究することにより,数学そのものが進展してきたといえると思います。

ここでご紹介するように,当数学教室では,整数論に代表されるような理論の深化を追及する立場の研究から,コンピュータによる数値計算を主体とする実験数学的立場の研究まで,多様で幅広い分野の研究が行われています。いわゆる数理科学系も,当教室に含まれています。

数学はその抽象性により汎用性の高い学問で,方程式の起源が物理学であろうと社会科学であろうと,同じ方程式ならば統一的に扱えます。そのため,さまざまな現象を動かす共通の本質を解明することができるところが,ひとつの魅力だと思います。数学は,その結果が普遍的であり,(原理的には)誰にでも検証できるため,研究経験の長短にかかわらず,築いた結果は長い数学の歴史の上に積み重ねられ,後世までくつがえされることがありません。また数学の言葉は世界中共通であるので,国際性の高い学問だと思います。実際,当教室にも海外から年間百名以上の研究者が訪れています

数学に興味をもたれた動機は千差万別と思います。当専攻では,動機のいかんにかかわらず,数学に興味をもち何かを徹底的に究明しようとする人を歓迎します。数学科出身者以外の諸君にも広く門戸を開いております。

ここ北海道で,誰も手をつけていない未知の分野を切り開いていけるような開拓者精神旺盛な人材を育てたいと思っています。