数理科学研究分野紹介

数学はとても魅惑的でミステリアスな学問です。数学は古い歴史を持つと同時に常に時代の先端をも切り開いてきました。数学は古代エジプト以来,常に人類社会の構造の変革をけん引してきたという歴史があるのです。土地の区画整備を厳密に行い都市計画を綿密に行うことは,幾何学や解析学とともに進化してきました。また数という概念の発明や物事を分類することで事物を認識する方法は,代数学の発展と共に進化してきました。

数学の中で,諸科学と密接に結び付き,人の認識能力の限界に挑むことで人類の福祉と発展に寄与する領域が応用数学であり,広く数理科学と呼ばれている分野です。例えば,ジョージ・ブールは思考とは何かを考え,ブール代数を創始しました。アラン・チューリングは同様に思考とは何かを考え,計算機械の原理を数学的に定式化しました。これがフォン・ノイマンによるデジタル計算機の発明につながりました。現在のインターネット社会もポール・エルデシュのランダムグラフ理論に端を発しています。このように情報革命は数学によってもたらされました。さらに近年では,高度な物質材料に関する研究や医療に関する様々な基礎研究においても,数学の関与によって飛躍的な進展が見られるようになりました。

したがって現代社会においては,科学と技術の発達や社会・政治・経済構造の複雑化・多様化に伴って生じた様々な問題を,数学的に解決できる応用数学分野での人材育成が課題となっています。

北大の数理科学系では,このような応用数学に関する国際的な潮流を早くから取り入れ,フロンティア精神のもとに応用数学,数理科学分野の研究を推進しています。今後も応用数学の最前線において一層の研究成果を上げるとともに,これまでに培ってきた教育の実績をより発展させて,応用分野において社会で活躍できる学生を輩出したいと考えています。

具体的な対象としては,次のようなテーマを各教員と大学院生が研究しています。理論的な研究から現象の解析に計算機を援用する研究まで,幅広いスタイルをとっていることも特徴です。「数学が世界を変える」を実践したい意欲あふれる学生に最適の場所を提供します。

・偏微分方程式を基礎としたスペクトル解析の応用,波動現象,光物性,逆問題,反応拡散系と数理モデルなど
・エルゴード理論に基礎を置く、複雑系の統計的予測理論など
・ 非線形力学系を基礎とした脳科学,複雑系,カオス,時系列解析,計算ホモロジーなど
・ 確率論を基礎とした統計力学,生物物理,数理物理など