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理学部数学科 教授  神保 秀一

数学的な思考や行為は人間にとって非常に根源的なものであると言って良いでしょう。原始の時代に人が様々な厳しい環境の中で身を守って生き延びるためには自然を観察し、ものを数え 記録し、大きさや形を計り、現象を予測する、これらは必然の行為でした。その中で文字や記号が生み出されて使用され、 物事や現象に対してより数理的な考えや活動をすることが可能になりました。

近代科学の黎明期においては微分積分学が天体や宇宙の理解の仕方を根本から変えました。複雑な自然現象を単純な法則や方程式から説明する科学理論にも力を与え、そして応用として社会生活を高度化するための技術にも貢献しました。数学のこのような役割は何千年もの間我々や文化を高めて来た原動力で、現在もこれからも人類や社会や科学技術の基盤を支えていくことになります。数学科で学ぶ抽象度の高い学問は実社会には無関係であると思っている方々が世間には多いのですが、それは見当違いと言えましょう。

今日でも理論的科学以外にも現実社会を直接的に支えている応用技術の中にも高度な数学が使われています。そしてそれらを開発している現場からの数学や数理科学への期待や要求も増しています。実際に数学科出身者は幅広くいろいろな理工系や情報系の分野で活躍しています。

数学の基礎分野は大まかに分けると代数学、幾何学、解析学ということになりますが、それぞれ長い歴史をもち相互に関連を持ちながら発達してきました。また応用数学の分野もありますので研究テーマも複雑に絡み合っています。このように数学は学問体系として非常に大きくなっていますので初学者にとっては学ぶべき基礎知識も非常に多いことになります。従って荷が重いと感じられると思われる人もいるかもしれません。このことについて若い方々にアドバイスしたい点が2つあります。それは

まず基礎をしっかり勉強する。数学は積み上げ型の学問ですから当然覚悟しなくてはならないでしょう。しかし基礎というのはしっかりと身につける程に荷が軽くなるものです。皆さんは特に意識しなくても(努力しなくても)自然に空気を呼吸していると思います。また頭の中で作文しなくても "おはよう" や "こんにちは" のあいさつをするでしょう。数学の基礎概念とはこのようなものなのです。

数学の研究者が最先端の諸分野でどのような事をしているのか関心を払うこと。これは自分の得意な分野を見据えるため、そして目標を考えるためのものです。山登りのことを考えましょう。まず出発する前に自分が登頂を目指す山について概要を下調べする必要があります。そして山の全体像や他の山との関係も意識しながら登る心がけが必要です。横道にそれて別の山に登頂しても良いでしょう。ただし、これが可能なのはいろいろな山についてのビジョンを持っているからです。数学研究でもどの専門分野でどのようなテーマに取り組むか、どうすれば上手く行くか、あらかじめわからないのが普通です。だから下調べが必要なのです。その際、先達のアドバイスをもらうことも重要です。これについては現在では数学専攻のホームページに多くの情報が掲載されていて数学科の先生がどのような分野を専門にしているかがわかります。
http://www.math.sci.hokudai.ac.jp/researcher/faculty-listing/

北大数学にはいろいろな分野の第一線で活躍している研究者がいます。関心を持った先生の講義やセミナーを覗いたり直接に先生の研究室に行って会って話をして聞いてみることも良いでしょう。必ず自分の研究テーマについてわかりやすく説明してくれることでしょう。
是非とも多くの意欲ある学生の方々が数学科に来て頂くことを期待します。