理数応援ニューフロンティア・プロジェクト 数学コース

MFG テキストガイダンス

【数理05】
漸近挙動入門 (高橋陽一郎著), 日本評論社
本書は、漸近挙動の理解を目標とした確率論、特に酔歩とブラウン運動、解析学の入門に最適といえる。例えば、何らかの極限を考える場合、極限に至る過程での挙動を解析することは極限値そのものと同様に重要である。本書では、漸近挙動として極限を取る過程に関する問題を確率解析を通じて理解する。

前半は、通常の講義では扱いにくい範囲のテーマについて、初等的な微積分、線型代数の知識を前提とするだけで入り込める。有限グラフのサイクル数を隣接行列の最大固有値で表した後、まず酔歩の到達確率について母関数を導入した手法を示す。酔歩を連続化したブラウン運動の到達確率は熱方程式の基本解になることが前半の終着である。ここにおいて確率解析と偏微分方程式論との密接な関連がわかることになる。

後半は「太鼓の形を聴き取れるか」と題し、体積など領域の形に内在する性質をラプラシアンの固有値分布(一種のスペクトル)から評価する。ある量を、定義に由来しない意外な形で評価することは数学の醍醐味の一つであるが、それを具体的に示すものである。
目次
第1章 グラフ上のサイクルの数を数える
第2章 酔歩の足跡を追う
第3章 積分を通して漸近挙動を追う
第4章 熱方程式を巡って
第5章 固有関数展開
第6章 漸近挙動と幾何学量
第7章 タウバー型定理
第8章 ワイルの公式
第9章 太鼓の形を聴きとれるか