理数応援ニューフロンティア・プロジェクト 数学コース

MFG テキストガイダンス

【数理03】
カオス入門 (山口昌哉著), 朝倉書店
カオスは, 力学系と呼ばれる数学分野に現れる特異な現象である. 時間変数をもつ非線型方程式が作る力学系に多く見られる. カオスはいくつかの重要な特徴を備えている. 例をあげると, 『多く種類の周期解を内包する』 また 『初期条件に関する鋭敏性』は特に重要である. これは初期値を微小に変化させたとき, 対応する解は長期的には大きな差を生じさせてしまうことを意味する. 一般に物理的な量や状態などの時間発展を記述する数学モデルは力学系と見なすことができるが, その中にカオス現象が存在すれば初期値に関する鋭敏性のため元の物理現象に予測不可能という性質を有することになる. すなわち初期条件を精密に測定しても現象の長期的な予測が困難ということになる. しかし, カオスの数学的な研究が進み理解が深まることで複雑な現象を制御することが可能になることもあり得る. このように物理の現象を理解する上でも重要で, 複雑な数学現象を探求するという価値もありカオス研究はますます盛んになっている. カオス現象を数学的に厳密に扱い, その特徴を証明する研究は70年代に盛んになった. その中心は李・ヨークの定理である. 本書は非常にシンプルな関数の例を提示し, それがつくる写像がカオス現象を出現させることを説明している. そして主定理と証明を紹介している. また後半においていくつかの実際の具体的な現象のモデルへのカオス理論の応用を紹介している.
第1章:
いろいろな関数とカオス (法則, 写像, 「予測し難い」 ということ)
第2章:
カオスの理論 (李・ヨークの定理と証明, 離散力学系)
第3章:
微分方程式とその離散化としての差分方程式
第4章:
数理社会学への応用 (グラノベッターのモデル, 流行のモデル)
第5章:
常微分方程式の離散化 (オイラー法, 多次元の離散力学系)