MFG テキストガイダンス
【数理00】
- 確率論へようこそ—コイン投げからランダム・ウォークまで (ブロム, ホルスト, サンデル著, 森訳), シュプリンガー
- 日常生活で現れる様々な確率の問題を具体的に解くことを通じて確率論の面白さを味わうテキストである. ただし通読すれば確率論の基礎的概念を学べるようになっている. 本書で扱われる問題の1例を説明しよう. 有限個の点を左右に1列に並べて番号をつけておく(点は無限個でもよい). これを格子(または1次元格子)と呼ぶ. 格子のある固定点を出発点とする. いまコイン投げ(試行)をして表が出れば左に1ステップ(確率1/2), 裏が出れば右に1ステップ移動(確率1/2)する. この試行を繰り返す. このように偶然に左右されて動点が格子上を左または右に(さまよって)移動してゆく過程はランダムウォーク(酔歩)と呼ばれる. 格子点が有限個として左端 (A地点), 右端 (B地点) を終点と考え, 動点は A あるいは B に到達したとき試行を停止する. 到達しないなら試行はずっと続くこととする. さてこの過程において有限回の試行で停止する確率はいくつになるだろうか? 停止までの試行回数を X とおく. X はどれくらいと見積もられるであろうか? X は試行の過程の成り行きによって変わり得る量であり確率変数(Random Variable)となる. 実は X の平均値を計算することができる(第1章参照). このような素朴な問題を考えることで確率論を学んで行くことになる. それぞれの素朴な問題が本格的な確率論の話題へ通じる様を見ることができる. 確率論のひとつの重要な役割は自然現象や社会現象を数学的に記述するため枠組みを与えることであり解析学の主要な1分野となっている. 以下に章ごとの項目を記述する.
- 第1章 : 確率論へようこそ
- 親切な子供, 忘れん坊の旅人, 車とヤギ, パターン I, 古典的ランダム・ウォーク I, 靴がなくなるまでの散歩の回数, バナッハのマッチ箱の問題, 気前の良い王様
- 第2章 : 基本的確率論 I
- 驚くべき条件付き確率, 可換性I, 可換性 II, 事象の結合I, 乱数に関する問題, 0-1値確率変数 I
- 第3章 : 基本的確率論 II
- 平均を求めるうまい方法, 確率母関数, 3角形のコーナーにいる人, 階乗母関数, 0-1値確率変数 II, 事象の結合II
- 第4章 : 初期の話題から I
- カルダノ-先駆者, 確率論の誕生, 分割問題, ホイヘンスの第2問題, ホイヘンスの第5問題, 幾つかのさいころを投げた時の点の和, ベルヌーイとテニス
- 第5章 : 初期の話題から II
- 共通分布についての幾つかの歴史, ワルデグレーブのパラドックス, 出会い I, 占有 I, 第2種スターリング数, ベイズの定理と連続法則, 夫婦円卓問題I
- 第6章 : ランダム置換
- 連I, 置換のサイクル, 第1種スターリング数, 置換における, 昇順, オイラー数, 置換における超過, 価格変動, 振動 I, 振動 II
- 第7章 : その他の話題 I
- 誕生日, ポーカー, 負の2項分布, 負の超幾何分布 I, クーポン集め I,クーポン集め II, 夫婦円卓問題 II, 出会いII
- 第8章 : ポアソン近似
- 同じ生まれのペアとトリオ, くじの問題, 分散距離, ポアソン2項分布, 出会い III,夫婦円卓問題 III, 占有 II
- 第9章 : その他の話題 II
- 誕生日と同じ生まれのトリオ, 乱数の比較, ランダム分割によるグループ分け, 最高記録 I, 最高記録 II, ブラックジャックの変形版
- 第10章 : ランダム・ウォーク
- 序,古典的ランダム・ウォーク II, 1つの吸収壁, ぐずぐずした蜘蛛, 星I, 閉じた停止領域, 反射原理, 投票問題, ランダム・ウォークの範囲
- 第11章 : つぼの話題
- ランダムに満たされたつぼ, ポーヤのモデル I, ポーヤのモデルII, ポーヤのモデル III, エーレンフェストのモデル I, エーレンフェストのゲーム, 薬の問題
- 第12章 : 全訪問時間
- 序, 完全グラフ, 線形有限グラフ, 多角形, 誤った予想, 星II, 全訪問時間の不等式
- 第13章 : マルコフ過程
- 復習 I, II, ランダム・ウォーク(2つの反射壁), エーレンフェストのモデルII, 2重推移確率行列, カード切り, マルコフ連鎖の推移時間, 可逆マルコフ連鎖, ホームシックのあるマルコフ連鎖
- 第14章 : パターン
- 連 II, パターン II, パターン III, 海賊のゲーム, ペニーのゲーム, ワルデグレーブの問題 II, 幾つかのパターンがあるか
- 第15章 : 埋め込み過程
- 復元取り出し, 色の繰り返し, 誕生日再考, クーポン集め III, 非復元取り出し,洗濯機の中の靴下, 負の超幾何分布II, 最初からrへゲームI
- 第16章 : 特別の話題
- 可換性 III, マツチンゲール, ワルドの方程式, バースコントロール, 表がr回多いゲーム, パターン IV, 1 と-1のランダム置換
- 第17章 : お別れの問題
- 最初からrへゲーム II, チェス盤上のランダム・ウォーク災難つきのゲーム, 出会いの問題, 修正版コイン投げ, 回文, 付録
本書を学ぶため予備知識はあまり多くはない. 高校までの確率統計や微分積分の数学知識でかなり読むことができる. よって, 根気があれば大学1年生でも通読することができる.