研究活動

「様々な離散構造を使って幾何学的不変量を記述する」という方向に興味が あります。

具体的な研究対象としては、これまで主に超平面配置を扱ってきました。 超平面配置は代数幾何、 組合せ論、表現論、トポロジーなどいくつかの分野に共通して現れる構造を 統一的に扱うために生まれた研究対象です。超平面配置は様々な分野と関係ある だけでなく、諸分野の相互作用を促すテーマでもあります (例えば組合せ論の問題を代数幾何の手法で解く、組合せ論的考察を 位相幾何に応用する、など)。 個人的な興味をいくつかテーマごとに書いてみます。 ([番号]は論文リストの番号です)
  1. 対数的ベクトル場とその自由性
    斎藤恭司先生によるコクセター配置の自由性の発見、および寺尾宏明先生による 「分解定理」以来、自由超平面配置は 代数幾何と組合せ論をつなぐ重要な役割を果たしています。 例えば1996年に Edelman と Reiner によって予想された、ルート系に関する 組合せ論的性質は、「自由性」の概念を介して、 問題を代数幾何的に翻訳することにより解かれました[3]。 自由性の特徴付け[2, 3, 13, 14, 21]やコクセター配置の平坦構造、 対数的ベクトル場の層を使ったベクトル場の構成[8, 12]、 随伴商写像の原始形式の理論に興味があります[1, 17]。 今後、表現論や可積分系の理論と関連を深めながら発展していくのではないかと 思っています。
  2. 超平面配置のトポロジー
    2000年頃にDimca-Papadima, Randell等により発見された 超平面配置の補集合の極小性という性質に興味を持っています。 これまで超平面配置の実構造を使って 極小性の精密な記述を行い、またその応用を研究してきました [5, 16, 20, 23, 24, 28, 29]。 最近は特に超平面配置の ミルナーファイバーのコホモロジーのモノドロミー固有空間分解、 局所系係数コホモロジーや部分空間配置のトポロジーを調べています。
  3. 格子点の数え上げ理論
    多面体に含まれる格子点の数え上げ問題(Ehrhart理論)は 数え上げ組合せ論の重要なテーマです。Ehrhart理論やオイラー多項式と 超平面配置(Linial配置)の特性多項式の関係が最近明かになり、Postnikov-Stanleyに よる特性多項式の零点分布に関する予想が大きく進展しました[31, 35]。 このあたりは面白い研究テーマがたくさんあるように感じています。
  4. マトロイド、Tutte多項式とその一般化
    マトロイドやTutte多項式はグラフ理論に起源を持ち、非常に多くの分野と 関わっています(Tutte多項式は二変数の 多項式ですが、これを適切に特殊化することで、交代結び目のJones多項式、 統計物理で有名なIsingモデルの分配関数、ランダムグラフの彩色多項式の 期待値、などが現れることが知られています)。 ここ数年、数理物理やトロピカル幾何学からの 影響もあり、マトロイドやTutte多項式の様々な一般化が活発になされています。 最近、Y. LiuさんやT. N. Tranさんと共同で、G-Tutte多項式という 新しい種類の多項式を導入しました[38]。 G-Tutte多項式は古典的なTutte多項式の 多くの良い性質を保持し、様々な人が提案している「一般化」を 統一的に扱うことのできる多項式です。G-Tutte多項式に関する 理論の整備と応用を研究しています。
  5. 様々な数え上げ問題の圏化, オイラー標数化
    物の個数は数えると(当たり前ですが)ただの数になります。これは「数」という 概念が 持つ大きな特徴だと思いますが、一方で「個数の由来」をしっかり把握しておく ことで、様々な問題に対するより深い理解が可能になります。 このような方向の研究は数学では「圏化」と呼ばれることがあります。 様々な数え上げ問題の背後にある、幾何学的ないし圏論的な仕組みを 明かにしたいと考えています[32, 34]。Leinster等による、圏や距離空間の magnitudeという概念にも注目しています。大雑把には、有限集合の個数と 同様に、『与えらえた距離空間にいくつくらい点があると考えるのが妥当か?』 という問いに対して数学的に与えられる一つの数値です。magnitudeの 圏化である、magnitude homologyに関しても研究をしています。[39]
以上とは別に、Kontsevich-Zagier によって導入された 「周期」と呼ばれる積分表示を持つ実数達にも興味があります。 (この方面ではプレプリント[15]を書き, その後色々な人との交流で得た 知見をまとめた書籍「 周期と実数の0-認識問題 (問題・予想・原理の数学2, 数学書房 2016)」を出版しました。)

また、これまでの超平面配置の研究を (物質科学、情報科学などへの)応用の中で生かせないか、ということを 気にしています。

個別の論文については 論文リストコメント付き論文リストをご覧ください。

研究のやりかた

一人で研究を進めることもありますし、共同研究もいくつか進めています。 2017年10月から 離散幾何構造セミナー を始めました。 現在(2021年4月)私が受け入れている研究者・学生は以下です。

ポスドク: Elisa Palezzato ,
学生(大学院生): 小山元希(DC), 工藤勇(DC), Christopher de Vries (DC, Cotutelle Program, Bremen), 石橋卓(DC), 田嶌優(DC), Zixuan Wang (DC), 菅原朔見(MC)

学生の研究テーマは、超平面配置周辺では極小性、モジュライ空間、 Hochschildコホモロジー、Postnikov-StanleyのLinial配置予想、 Kirby計算とLefschetz fibration、超平面配置関係以外ではEhrhart理論、 magnitude homology や位相構造を持った順序集合の間の射の空間などです。

2020年度後期の私のところのセミナー(3年〜修士)では以下の文献を読みながら 研究への足掛かりを探っています: 北海道大学には研究上の興味の近い研究者が たくさんいます。長谷部高広先生、Michele Torielli先生とは共同研究があります。
学部生へのコメントはこのページの一番下にも書いています。

(以前の記録)

ポスドク: 留学生: 博士論文 修士論文 その他に北海道大学で学位論文(博士/修士)の副査、Bremen大学(ドイツ)で 博士論文審査委員、Pau大学(フランス)での博士論文レフリーをそれぞれ何件か 務めました。

学生(学部生)向けコメント

大学院進学を考えている学部生には、Riemann面の勉強を すすめることにしています。Riemann面は、現代数学の多くの研究テーマの源流であり、 今でも重要な研究対象だからです。Riemann面そのものを研究対象にするか どうかはともかく、Riemann面に触れて、ある程度の感覚を身につけておくことは、 将来どんな方向に進んでも役に立つと思います。
大学院生の研究テーマとしては(広い意味で)組合せ論、代数幾何または トポロジーに関係したものを扱いたいと考えています。 幾何学的な不変量を代数的ないし組合せ論的情報と 関係づけて理解したい、というのが私の研究上の大雑把な 方向性です。大学院生の研究テーマとしても、その線に沿ったものを すすめることになると思います。 ただし上記のテーマに限定するわけでは なく、本人の積極的な希望があれば尊重します。
学生を指導する際の方針としては、数学的内容の習得よりも、 まずは数学書を自力で読めるようになることを重視します。 (数学書に書いてあることは、絶対正しい「信じるべき教義」ではありません。 数多くのギャップがちりばめられています。むしろ「ウソばかり書いてある」くらいの スタンスで臨んで、その中から正しいことを積み上げていってください。 「数学書を自力で読めるようになる」 というのは、あらゆるギャップを見つけ、自力で埋められるギャップは埋めて、 分からないことを分からないと自分で認識して、他の本を調べるなり質問するなり して解決しながら読み進めることです。 セミナーの準備では自分の頭の中で整理しきった状態にしてください。)

参考までにこれまで学生のセミナー(学部〜修士)で セミナーで扱った文献をあげておきます。(完全なリストではありませんが、 これらのリストの中に気になるものがあれば、数学的な興味を共有できる のではないかと思います。 私がこれらのテーマ全てに精通しているわけでも、ここにないものを 排除するわけでもありません。) (2019年4月)