http://www.math.sci.hokudai.ac.jp/~nami/20110731.html
(Firefox, Chrome, Safari, IE9, ... )
次の図形の性質を理解すること。(下向きがy座標の正の方向、右向きがx座標の正の方向。)
配布した資料は"Nature"という学術雑誌に掲載された記事の一つです。 表面が鏡になった球を正四面体の各頂点に置き、うまく三色の光を当てて隙間から覗くと複雑な模様を観察できます。
クリスマスの時期になると、クリスマスツリーの飾りを使って同じような実験をできます。が、今日は手に入れることができなかったので、計算機で描画してみます。
鏡 定義 例 定理鏡を二枚用意して、お互いを写すように置きます。一方の像は他方の鏡の「中に」写りこみますから、全体の大きさは小くなります。これを数学的に表現すると「縮小写像」という概念を使います。 言葉は高級ですが、要するに縮小コピーと変わりません。
点と点の対応を与える規則を写像と呼びます。\(F\)と書き、座標\((x,y)\)で表す点の\(F\)による対応先を \(F(x,y)\)と書くことにします。
定義:縮小写像とは、\(|r| \lt 1\)を満す定数が存在して、 平面上のどんな二点\((x_1,y_1)\), \((x_2,y_2)\)をとっても \[|F(x_1,y_1)-F(x_2,y_2)| \le r | (x_1,y_1) - (x_2,y_2)|\] を満たす写像\(F\)のことである。
図参照。相似形の図形に変える対応なら相似変換と呼びます。この とき縮小率は全ての点の組について一定で, \(|F(x)-F(y)|= c|x-y|\)となります。 全体を半分に縮める縮小写像は次のようになります。 \[F(x,y)=\left(\frac{x}{2}, \frac{y}{2}\right)\]
図参照回転や平行移動は相似変換の一種です。回転は次のように表せ、 \[F(x,y)=\left( r \cos\theta x - r \sin\theta y, r \sin\theta x + r \cos\theta y \right)\] 単純に縮めたうえで平行移動すると次のように書けます。 \[F(x,y)=\left(\frac{x}{2}, \frac{y+1}{2}\right)\]
重要な定理を示します。縮小写像を何回も繰り返すと元の図形はどんな図形でも必ず一つの点に縮んでいきます。
定理: \(F(x,y)\)を縮小写像とするとき、\(F(x,y)=(x,y)\)を満す点\((x,y)\)がただ一点だけ存在する。
この様子を観察しましょう。 資料の縮小コピーを繰り返すと図のようになります。
定理の説明: 二つの点\((x_1, y_1)\)と\((x_2,y_2)\)をとり、\(F\)\を繰り返し作用して距離の変化を観察します。 \(F^n\)について次のように変形でき、 \[ |F^n(x_1,y_1)-F^n(x_2, y_2)| \le r |F^{n-1}(x_1,y_1)- F^{n-1}(x_2, y_2) | \] 繰り返し変形すると次を得ます。 \[ |F^n(x_1,y_1)-F^n(x_2, y_2)| \le r^n |(x_1,y_1)- (x_2, y_2) | \] \(n\)を大きくするごとに\(r^n\)は0に収束していきますので、どんな二点をもってきても\(F\)を繰り返し作用することで二点間の距離が小さくなっていき、 最後には同じ点に収束します。 \[ \lim_{n\to\infty} F^n (x,y)=(x_0, y_0)\] この収束先が不動点に一致します。
様々な縮小写像の様子を見ておきましょう。
複数 例 高速化縮小写像一つだけを作ると、写像を繰り返し作用することで縮小写像の不動点定理から一点に収束することがわかりますが、 複数の縮小写像を組合せることで複雑な図形を作ることができます。これを反復関数系と呼びます。各々の縮小写像に番号をつけ て、\(F_1\), \(F_2\), \(F_3\)などと呼び、反復関数系を次のように書くことにします。
\[ F=(F_1, F_2, F_3 ) \] この時,\(F\)を平面図形から平面図形への写像とみなすことができ、\(F\)は平面内のあらゆる図形全体に対する縮小写像となっています。 ここでも \(F\)を繰り返して作用することで不変な図形が存在します。 この図形\(K\)を縮小写像の組による自己相似図形、 フラクタル図形と呼びます。 この図形は \[K=F_1(K)\cup F_2(K)\cup F_3(K)\] という性質を持ちます。 右辺は,それぞれの縮小コピーを貼り合わせたものと考えて下さい。(数学的には集合の和です。) 例次の写像はそれぞれ縮小写像となっています。 \[F_1(x,y)=\left(\frac{x}{2},\frac{y}{2}\right)\] \[F_2(x,y)=\left(\frac{x}{2}+\frac{1}{2},\frac{y}{2}\right)\] \[F_3(x,y)=\left(\frac{x}{2},\frac{y}{2}+\frac{1}{2}\right)\]
簡単に確認しておくと、 まず、次が成立。 \[F(x_1,y_1)-F(x_2,y_2)=\left(\frac{x_1}{2},\frac{y_1}{2}\right)-\left(\frac{x_2}{2},\frac{y_1}{2}\right)=\left(\frac{x_1-x_2}{2},\frac{y_1-y_2}{2}\right)\] 定義に当てはめて、次のように変形できるから、縮小写像。 \[|F(x_1,y_1)-F(x_2,y_2)|=\left|\left(\frac{x_1-x_2}{2},\frac{y_1-y_2}{2}\right)\right|=\left|\frac{1}{2}(x_1-x_2, y_1-y_2)\right|=\frac{1}{2}|(x_1-x_2, y_1-y_2)|=\frac{1}{2}|(x_1, y_1)-(x_2,y_2)|\]
このように、縮小写像の組を適用してフラクタル集合を作っていくと計算時間が長くなります。写像の数を\(N\)として、\(n\)ステップ目のフラクタル集合を作るには\(N^n\)の計算量が必要だからです。
定理:\(F_1,...,F_N\)を縮小写像の組とする。開始点\((x,y)\)を一つ定める。ランダムに1からNまでの値をとる数列を\(p_1,p_2,p_3,...\)とおけば、漸化式で定まる点の列 \[(x_{n+1},y_{n+1})=F_{p_n}(x_n,y_n)\] によって定まる点の全体が反復関数系\(F_1,...,F_N\)によって定まるフラクタル集合に収束する。
ステップ1では次のように書け、 \[ K_1=F_1(K_0)\cup F_2(K_0)\cup F_3(K_0) \] ステップ2では次のように表現できる。 \[ K_2=F_1(F_1(K_0))\cup F_1(F_2(K_0))\cup F_1(F_3(K_0))\cup F_2(F_1(K_0))\cup F_2(F_2(K_0))\cup F_2(F_3(K_0)) \] 一般の\(n\)ステップで生成される図形$K_n$は次のようになる。 \[ K_n=\bigcup_{p_i=1,2,3}F_{p_n}(...(F_{p_1}(K_0))) \] \(n\)を十分大きくとることで、\(K_n\)は一つの図形に収束し、\[K=\lim_{n\to\infty}K_n\] をシェルピンスキーのギャスケットとよぶ。
有限個の縮小写像を定めることで、様々な反復関数系を作ることができる。その反復関数系はフラクタル集合を一つ決める。
シェルピンスキーのガスケットの周の長さと面積を測ってみる。一般のフラクタル図形で測ることはとても難しい。
長さ
平面上の曲線\(L\)の長さ\(l(L)\)は、曲線を\(a\)倍すると\(a\)倍になる。 $$ l(aL) = a l(L)$$
平面図形\(K\)の面積\(S(K)\)は、図形を\(a\)倍すると\(a^2\)倍になる。 $$ S(aK)=a^2S(K)$$
平面図形\(K\)に対して定まる有限値の量\(\mu(K)\)が、図形を\(a\)倍すると\(a^d\)倍になるものとします。 $$ \mu(aK)=a^d\mu(K)$$ このような\(\mu\)が存在するとき、定数\(d\)をフラクタル次元と呼ぶことにします。
シェルピンスキーのガスケットを考えると、周の長さが発散して面積が0に収束しています。すると、1と2の中間に丁度よい値がありそうです。
縮小写像\(F_1,\dots,F_N\)が、それぞれ\(r_1,\dots,r_N\)の縮小率を持つ相似 変換であるとき、\(d\)は次の方程式を満たします。 \[1=r_1^d+\dots+ r_N^d\] 一般には、この方程式を解析的に解く(\(d\)を\(r_i\)で表す)ことはできませんが、 すべての\(r_i\)が定数\(r\)であれば\[d=-\frac{\log N}{\log r}\]です。