第18回JST数学キャラバン「拡がりゆく数学 in 水戸 2016年度」

    科学技術振興機構     さきがけ「数学協働」領域

「拡がりゆく数学 in 水戸 2016年度」参加レポート

(2017年4月8日誤字修正)

 大学で学ぶ数学は高校数学とどう違うの? どんなことが学べるんだろう? そもそも数学って何の役にたつのかな? そんな疑問に答えてくれるイベントが、2016年12月17日(土)に水戸で行われた。数学が社会のさまざまな分野とつながり、どう活用されているかを知ってもらうために開催されている講演会、『第18回JST数学キャラバン 拡がりゆく数学in水戸』だ。
 会場となった茨城県立水戸第一高等学校には、県下の高校生を中心に89名が参加。講師は、諸分野との共同研究を目指している一流の数理科学者たちだ。果たして、どんな講義が行われたのか、高校生たちの感想とともにレポートしよう。(レポート:中城邦子、撮影:吉澤咲子)

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会場となった水戸第一高校。受付をしてくれたのはサッカー部の生徒たちだ


代数系の代表選手、“群”と“体”を知る

 最初の講義は、京都大学 大学院理学研究科 MACS特定助教の石塚裕大さんによる『代数構造のはなし:整数論の話題から』。

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 本題に入る前に、この日集まった数学好き高校生たちのために、大学に所属する数学者は日頃どんなことをしているのか、石塚さん自身を例に紹介があった。特に数学者の研究活動とはどんなことをするのかについては、みな興味津々で聴き入っていた。
 石塚さんの研究する数論幾何学は、代数的な構造から幾何学にアプローチしようというもの。研究活動は、計算と証明の試行錯誤の連続だ。証明したいことを計算して検証し、発想を変えたり論文を調べたりしながら、やり直しを繰り返して、証明すべき命題に近づいていく。そうした数学者たちの挑戦の中には、性質をみつけるのに数十年、数百年かかっている命題もあるのだという。
 講義は、暗号の世界で基礎になっている有限体や、演算が可換なAbel(アーベル)群、楕円曲線の足し算などを中心に進み、群と体という代数構造について学んだ。高校生にとっては初めてふれる数学の領域だ。石塚さんは、アメリカのクレイ数学研究所が100万ドルの賞金をかけている問題の1つ、Birch and Swinnerton-Dyer(バーチ・スウィンナートン=ダイアー)予想についても言及。「今日は難しかったかもしれませんが、Abel群の構造を見つけるとゼータ関数につながるなど、数論幾何学には面白いところがあります。他の方程式ならどうなるか、他の曲線だとどうなるかと考えることが数論幾何学の出発点なのです」と話してくれた。
 講義後の参加者たちは、未知の領域に圧倒されていた。「高度でついて行けなかったが、楕円曲線には興味をもった」(高校1年生)、「a + bb + a を違うとする数学があることが驚きだった」(高校2年生)、「楕円曲線上で足し算をするという発想が思いつかない」(高校2年生)、などの感想を語ってくれた。

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Abel群は社会のどんなところに使われていくのか、数論幾何学とはどんな学問なのかなど、さまざまな質問が相次いだ


ニュートン法で近似値にショートカット

 次の講義は明治大学 研究・知財戦略機構 特任講師の宮路智行さんによる講義。『コンピュータと解析学の交差点―ニュートン法を中心に』というものだ。

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 宮路さんは開口一番「これから行う講義は、大学1年で習う数学です。今、全部理解してもらう必要はありません。大学1年の冬にレジュメを見返してもらって、こういうことをやったのかと分かってもらったらいいのです」と解説。高度な内容に気おされ気味だった参加者も、すっかり勇気づけられて2限目がスタートした。
 講義のテーマとなったニュートン法は、方程式の解を近似的に求めることができる方法だ。近似解法では、計算を繰り返して解に近づいていくが、二分法で計算を繰り返して解に近づいても、1回に絞り込めるのは半分まで。いかにも効率が悪い。そこでニュートン法の登場だ。「微分と漸化式の合わせ技で、解に近づいていく数列をつくるのです」。
 例えば2の平方根を求める方程式 x2 - 2 = 0 を解いてみると、二分法では30回目にようやくたどり着く近似に、ニュートン法では4回で至る。収束が速いのだ。さらに講義では、初期値による収束の違いや、複素関数にニュートン法を使った場合に描かれるフラクタル図形など、コンピュータによって高速化し強力になったニュートン法について講義を受けた。
 「大学で勉強するであろう数学の3つの大きな分野『数値解析』『解析学』『力学系』の間にあるものです」というニュートン法の存在を初めて知った参加者たち。日立市から来た科学部の生徒に聞くと、「以前、茨城大学の先生からシダの葉からフラクタルの図形になると聞いたことがあったが、今日は数式から表現されるフラクタルを知った。自然界からの視点と数式からの視点があることが、発見だった」(高校3年生)、「今はまだ分からないことも多かったが、数字が不思議と正解に近づいていくことに、こういう方法があったのかという驚きがあった」(高校2年生)など、感想を語ってくれた。中にはさっそく講義中に紹介された数列の繰り返し計算を試した生徒もいた。

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ニュートン法を使った場合のフラクタル図形

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会場は熱気に包まれていた


身の回りの現象を数理モデルで表す

 この日、最後の講演は、『拡がりゆく数学』の命名者。第1回の講義でも登壇している北海道大学 電子科学研究所 教授の長山雅晴さんだ。
 『漸化式を使っていろいろな現象を数学にしてみよう』と講義は始まった。

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 時間とともに変化する現象を記述するためのツールが漸化式だ。「その数理モデル(漸化式)を作る基本原理は、単位時間あたりの「流入するものの量」-「流出するものの量」で表されます。いかにして「流入量」と「流出量」を見つけるかが重要です」と長山さん。
 漸化式で表現できる現象とは何だろう。例えば酸化と還元を繰り返し、色が周期的に変化する化学振動反応、Belousov-Zhabotinsky(BZ)反応も、漸化式で表すことができる。その漸化式をコンピュータに入力すると、化学反応と同じように振動による色の変化を画面上に表現することができる。さらに、解の性質を調べることで、なぜ振動が起きるかを理解することが可能になるのだ。複数のロウソクの振動が同期する現象や2台のメトロノームの振り子が吊り板の上で同期するなど、興味深い実験の動画を見たあと、いよいよ人口問題を例に、漸化式の作り方に。人口密度が高くなると増加率は下がるなどの改良モデルや、生態系で競争が起きる場合のモデルなど応用編へと講義は進んだ。
 「大学で出合う数学に、解ける問題はほとんどありません。しかし微分を使うと、解に近いものを求めることができる。今日の講義で、覚えておいてほしいのは、時間とともに変化していく現象も、数理モデルを使って表現できること。数理モデルを作るには、現象をしっかり観察しいかに流入と流出を見つけるかが大事だということです」と締めくくられた。
 参加者は、「数理モデルで現象を表せることに、とても興味がある。もしかしたら、これも数理モデルにできるのかもしれないと考えたら、いろいろな現象の見方が変わる」(龍ケ崎市の高校2年生)、「日常の中に漸化式で表せるものが多くあると知ってとても面白いと思った」(高校1年生)など、それぞれの感想を胸に、数学への新たな興味をかきたてられていた。

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ユーモアあふれる解説に思わず笑いが起こるシーンも

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講義後は実験と漸化式についての質問が出た


拡がりゆく数学を取材して

 今回の数学キャラバンは、大学で学ぶ数学の世界をのぞかせてくれるものだった。それだけに内容は高度で、「何となく高校の授業の延長のイメージで参加したら、1コマ目からガッツリ大学数学で衝撃的だった」。しかし、その一方で、「数学は得意と思っていたが、自分たちが知っているのは数学の世界のほんの一部だと知って嬉しくなった」というのも多くの参加者の共通した思いだ。高校教諭からは「高校までは、数学への興味は問題を解くことにあるが、大学の数学では定義や法則を見つけ、数学で表現することに面白さが移る。その入り口を講義してもらえた」との感想も寄せられた。
 もう1つ印象的だったのは、「社会に出たら、解けない方程式を解けと言われることが日常になります」「高校で習う数学と違って、さまざまな現象を解く方程式には正確な解は出ません。しかし近似値を出すことはできます」などの講師の言葉に、高校生たちが深く首肯していたことだ。
 今、高校生たちは総じて大学進学をゴールとみるのではなく、その先の社会でどう活躍し貢献する人間になるかという意識が高い。「解けない問題を解く、正解でなくてもそれに近いものを求める。大学で学ぶことが社会にもつながっていくと知った意義は大きい」(高校2年生)と語る。
 「知らない世界を探求するのが数学の面白さ。いずれ理解できるようになるはずのレジュメは、数学的探究をずっと続けていけという、これからの僕たちへのエールだと思う」(高校1年生)という力強い言葉に感銘を受けた。

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講義後は自由な質問時間が設けられた

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休憩時間は、別室に用意された茶菓でひと休み。高校教諭による実験のデモンストレーションもあり、多くの生徒が実験にも参加した


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