数理科学セミナー 量子ウォークにおけるトポロジカル相:非ユニタリー作用素への拡張

開催日時
2017年   11月 14日 17時 00分 ~ 2017年   11月 14日 18時 00分
場所
北海道大学理学部4号館501室
講演者
小布施秀明(北海道大学大学院工学研究院)
 
概要 PDF版(図あり)

 離散時間量子ウォークは,スピンなどの内部自由度を持つ粒子に対し,内部自由度を変えるコ イン作用素と内部自由度に応じて位置を変えるシフト作用素からなる時間発展作用素を,繰り返 し作用させることにより粒子の量子力学的な時間発展現象を記述する.量子ウォークは量子計算・ 量子情報の分野で発展してきた学術分野であるが, 近年, 量子ウォークは周期的に駆動される系と みなすことができることから,フロッケ・トポロジカル相の研究を行う理想的な系としても注目 を集めている. トポロジカル相とは、過去 10 年、物性物理学の分野で盛んに研究されているトポ ロジカル絶縁体に特有な位相である。量子ウォークにおけるトポロジカル相の研究は,2010 年の 北川氏らの先駆的な研究 [1] を発端とし,すでにエッジ状態の実験による直接観測も行われている [2]. 量子ウォークの研究分野では,従来からバリスティックな伝搬 [3,4] と共に局在状態に関する 数学的研究が注目を集めていた [5]. 局在状態をトポロジカル相により物理的に説明できることか ら,物理学者や数学者の興味を惹きつけ, 現在では分野横断的な研究も含め,様々な研究が行われ ている [6-13]. 本講演では,量子ウォークのトポロジカル相に関するこれまでの研究について概説 した後,最近の研究成果として非ユニターリな量子ウォークについて紹介する.
 量子ウォークのトポロジカル相に関する研究の当初の重要な問題は,フロッケトポロジカル相を調べるための理論的な枠組みを確立することであった [6-8].量子ウォークにおけるトポロジカル相と,通常のトポロジカル絶縁体の研究において,理論的な取扱いの重要な違いは,量子ウォークでは,ハミルトニアンを導入することなく,時間発展作用素が直接定義される点である. 従って, 量子ウォークのフロッケトポロジカル相を議論するためには,時間発展作用素に対する対称性を定義し、さらにトポロジカル数を計算する必要がある. これらの問題は,対称時間軸という考えを用いて,時間発展作用素の対称性を理論的に取り扱い やすくするような時間の原点を選ぶことで解決された [7,8]。
 量子ウォークのトポロジカル相を研究する上で、量子ウォーク特有の現象を調べることは興味 深い問題である.量子ウォークの実験は主に光学系が用いられているため,フォトンや光の損失,及び増幅の効果の高精度な制御も可能である.この様な観点から,最近,減衰と増幅の効果を伴 う量子ウォークのフロッケトポロジカル相の研究を行った [11,12].粒子の損失・流入があること から,この系の時間発展作用素は非ユニタリー作用素となり,一般にそのエネルギーは複素数 (時 間発展作用素の固有値 λ が |λ| ̸= 1) になる.しかし,非エルミートな系でも,空間反転と時間反 転を組み合わせた PT 対称性がある時,エネルギーが実数になるうることが知られている [14]. 我々は,量子ウォークの非ユニタリーな時間発展作用素に対する PT 対称性の定義を与え,さら にフロッケトポロジカル相について調べた.その結果,このような非ユニタリーな系でも,PT 対 称性がある時,エネルギーが実数になることが分かった.さらに,この系でもトポロジカル相に 起因するエッジ状態が現れるが,エッジ状態のみが PT 対称性を破るため, 時間発展と共に、エッ ジ状態の確率振幅が指数関数的に増幅することが分かった. 以上の理論結果は、フォトンの散逸を 伴う量子ウォークの実験を行うことにより、実験結果と一致することが確認された [13]。

[1] T. Kitagawa, M. S. Rudner, E. Berg, and E. Demler, Phys. Rev. A 82, 033429 (2010).
[2] T. Kitagawa, M. A. Broome, A. Fedrizzi, et al., Nat. Commun. 3, 882 (2012).
[3] N. Konno, Quantum Inf. Process. 1 345 (2002).
[4] N. Konno, T. Namiki, T. Soshi, Interdisciplinary Information Sciences, 10,11 (2004). [5] N. Inui, N. Konno, and E. Segawa, Phys. Rev. E 72, 056112(2005).
[6] H. Obuse and N. Kawakami, Phys. Rev. B 84, 195139 (2011).
[7] J. K. Asboth and H. Obuse, Phys. Rev. B, 88, 121406(R) (2013).
[8] H. Obuse, J. K. Asboth, Y. Nishimura, and N. Kawakami, Phys. Rev. B 92, 045424(2015).
[9] T. Endo, N. Konno, and H. Obuse, arXiv:1511.04230.
[10] T. Endo, N. Konno, H. Obuse, and E. Segawa, J. Phys. A: Math. Theor. 50, 455302(2017).
[11] K. Mochizuki, D. Kim, and H. Obuse, Phys. Rev. A 93, 062116 (2016).
[12] D. Kim, K. Mochizuki, N. Kawakami, and H. Obuse, arXiv:1609.09650.
[13] L. Xiao, X. Zhan, Z. H. Bian, K. K. Wang, X. Zhang, X. P. Wang, J. Li, K. Mochizuki, D. Kim, N. Kawakami, W. Yi, H. Obuse, B. C. Sanders, and P. Xue, Nature Physics 2017, 4204 (2017). (DOI: 10.1038/nphys4204)
[14] C. M. Bender and S. Boettcher, Phys. Rev. Lett. 80, 5243 (1998).

関連項目

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