第156回複雑系セミナー 記憶の埋め込みによる自発及び誘起神経活動の形成

開催日時
2012年   5月 7日 15時 00分 ~ 2012年   5月 7日 16時 30分
場所
中央キャンパス電子科学研究所5F講義室(北12条西7丁目)
講演者
栗川知己(東京大学)
 
複雑系セミナーの一覧
http://www.math.sci.hokudai.ac.jp/tag/complex_systems_seminar

アブストラクト
生物の神経系における情報処理を理解することは神経科学の重要な課題の一つである。従来の神経科学では、何らかの刺激、例えば認知課題や感覚刺激、を与えその応答(誘起活動)を調べることで、どのような情報処理が行われているのかを明らかにしてきた。この方法論では刺激提示前の自発神経活動には注意は払われて来なかった。しかし、近年の観測技術の向上によりこの自発活動が、刺激に対する応答に影響を与えているという事が明らかになってきた。このように自発活動は神経系の情報処理において重要な役割を果たしていると考えられる。自発活動として広く観察されている特徴的な挙動として、誘起活動と自発活動の類似性がある。すなわち、誘起活動として見られる活動パタンが、刺激がない自発的な状態においても観測されている。さらにこのような挙動は生得的なものではなく、発達あるいは学習により形成されていくという結果が最近報告されている。
本発表では、このような自発活動の情報処理における役割を理解するために、特に学習によってどのような自発活動が形成されるのか、またそのような自発活動のパタンと誘起活動がどのような関係があるかを解析した以下の研究についてお話したい。

本研究では、自発活動と誘起活動の関係が学習により(記憶の埋め込みにより)どのように形成されるのかを、簡単なモデルを用いて解析することを目的としている。学習を通して形成される記憶のモデルとして連想記憶モデルが一般的に知られているが、このモデルでは入力は系の初期条件として与えられ、その収束先のアトラクタが入力に対する応答あるいは想起結果として出力される。初期条件が入力で与えられるので、入力がない状況での活動である自発活動はこのモデルではとらえられない。そこで上記の目的のため、入力を初期条件ではなく、系の分岐パラメタだと考えることで、自発活動を取り入れた連想記憶の枠組みをわれわれは提案する。
本研究は以下の二つの部分からなる。1.結合強度が予め与えられているモデル。これはHopfield modelのように記憶したいパタンに対して結合強度が定まるモデルである。2.学習モデル。1.と異なり結合強度が学習により変化し、結果として記憶したいパタンが埋め込まれるモデル。
両モデルを用いて、記憶(学習)するパタン数を増やした時に自発活動と誘起活動がどのように変化するかを解析した。その結果、記憶(学習)がうまく出来ている領域では、誘起活動に似たパタンを自発活動が経巡るようなダイナミクスが形成されることが明らかになった。
以上の結果は、上で述べた実験で広く観察される自発活動の挙動が、記憶容量を大きくした結果形成されるという可能性を示唆している。

関連項目
,

研究集会・セミナー・集中講義の一覧へ