平成7年度 高校生のための数学夏季講座(北海道大学オープンキャンパス)

1995年08月08日

毎年8月に北海道大学体験入学の一環として開催しておりました「数学科教員による公開講座」の内容を紹介します。(※平成19年度以前の名称は「高校生のための数学夏季講座」となっております)

夏季講座 : 8月8日(月)-12日(金)

複素数を使おう

林実樹廣 (北海道大学理学部教授)

人は,数を数えることを憶えて以来,量を表現するために分数を発明した。その後,無理数,負数,虚数 (複素数) なども発見したが,その意味は長い間認められなかった。しかし,暗黙の内に使う学者もおり,近世の大きな学問の発展のなかで,いつの間にか数学者の常識として,数として扱われるようになった。そして,現在では,日本の高校でこれらの数について教わっている。複素数は,数学のみならず,物理や工学の理解のためにも必要な常識となっている。このような歴史の背景にあるもの,そして,いま複素数が自然を表現するためにどう使われているのかについて,易しく解説したい。

力学系のはなし

中居功 (北海道大学理学部助教授)

力学とは物理であると考える人も多いと思うが,その初期では数学とむすびついていた。ニュートン,ハミルトン以来,力学は位置と速度の組を座標系にした空間の中の運動と捉えられてきた。よく知られるように,エネルギー=位置エネルギー+運動エネルギーであり運動はエネルギー=E (定数) の定める曲面上の時間にともなう流れ(力学系)とみなされる。これが古典力学である。ここではある時刻での状態 (=座標) が決まると将来がすべて決まってしまう。しかし長時間先のことは別の話である。例えぱ複素平面の中の運動cos t+sin tは時間tが1,2,3….と無限大にいくとき,碓率的には半径1の円上に一様に分布している。このように目を遠い来にうつすと状態を予測するのは難しく別の見え方がしてくる。(これならまだいいが太賜系のような沢山の天体の動きなどは想像をこえている。カオス!) 力学系の理論はこれを理解するために生まれ,歴史的に決定論と非決定論の間を揺れ動いている。構造安定性(神話)とは“現実”は安定で多少の狂いが生じても大勢には影響がなく遠い将来は変わらないことを言う。(同様に現在の状態も遠い過去からの約束された未来なのだと。) 本当だろうか?この講義では様々な力学系をみて,どのような現象がおきるかを観察する。また安定性についての数学的理論を紹介する。

カオス

津田一郎 (北海道大学理学部教授)

カオスとはなんだろうか。カオスは身近にいくらでも発見することができる。いくつかの例を通して,カオス現象にふれる。カオス現象に潜む数理的な構造も理解できるようにする。できれば,デモンストレーションも行いたいと理う。カオスを通して現象から新しい数学がいかに構築されるかを知る。

数理生物モデルとその記述する現象

岩田耕一郎 (北海道大学理学部助教授)

自然界または人間杜会の様々な現象を,数理的思考のもとモデルをたてそれを数理的手法を用いて解析することにより,理解しようという試みは古くからある。単純な設定にも関わらず,現象を特徴づける複雑な振る舞いを記述できるモデルは現象の本質をとらえている。さて,数学の言葉でモデルが解析でき,それによって記述できる現象は,設定が簡単なものに限られることが少なくはない。そのうちで確率論において研究の進んでいるコンタクトプロセスとその派生モデル及びそれらの持つ臨界現象を紹介する。これらは生物学的な解釈が可能なモデルで,コンピュータ実験のビデオを手助けに, そこで展開される解析の底流にある統計物理学的な考えの説明を試みる。

波動現象の数理:フーリエ解析

新井朝雄 (北海道大学理学部教授)

波動現象は我々にとってなしじみ深い物理現象である。たとえば,海や湖における波,音波,電波,光などが思い浮かぶであろう。この講義では,波動現象の数理を初等的なレベルで考察してみたい。波動現象の数理を支える基本的対象は3角関数であるが,それを波動現象の観点からとらえることよ り,3角関数に対して,より深い理解と洞察が得られるはずである。このことを通して,フーリエ解 析とよばれる,数学の重要な分野への入門ともしたい。また,波動という概念は,原子や素粒子とい・った極微の世界にも関わる。この点についても若干ふれる予定である。