秦泉寺雅夫(准教授・幾何系)

Q. 出身高校と出身大学を教えて下さい。

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出身高校は香川県立高松高校で,そこから東京大学に進学しました。東大は進振り制度(注:進学振り分け制度)があるのでそこから物理学科に進みまして,大学院は物理学科の素粒子理論研究室です。そこで大学院の修士課程と博士課程の5年間を過ごしました。

Q. 大学の時はどんな学生だったのですか?

普通の学生というか,どちらかというとサークル活動に精を出していたような気がします(笑)。サッカーをやっていました。勉強の方は,普通に物理の勉強をしていたんですけれども,数学の方には興味があって,授業を受けた訳ではないんですが,微分幾何とかトポロジーの本を好きで読んでいました。
まずどうして物理学科に決めたかと言うと,理学系に行きたかったので数学か物理かどちらかだと思ったんですね。で、微積分とかは東大では教科書として杉浦光夫先生の解析入門を買わされたんですけど、中を見ると細かい字がびっしりと書いてあって目が回りまして(笑)、 数学でやっていくには難しいんじゃないかと思って物理学科へ決めました。
それで,物理学科に入ってからは,漠然と理論を研究したいと思っていました。物理学科なのに幾何というものに興味があったのは,独学で学んだトポロジーが非常に面白かったので。それで素粒子理論研究室に何故入ったかと言うと,その当時「超弦理論」というものが流行っていたんです。素粒子理論研究室には江口先生がいらしたんですが,どうもそこではトポロジーを使って研究ができるらしい,という噂を聞いたんですね。その研究室で5年ほど学んでいるうちに,幾何への興味が優先されてしまって,数学の分野へと(笑)。

Q. 数学科に進学していたらどうだったと思います?

物理学科だと,数学を使う立場から教えてもらえるので…例えば微分方程式論だとかは実践的な方向から入っていけるので。僕は抽象論は苦手で(笑),実践的な方が好きだから,物理数学的な授業が性にあっていました。物理から数学の分野へ入ってゆけて,幅広く学ぶ…というか数学を使えて,個人的には良かったと思います。使う立場から数学の分野へ入って良かったと思う反面,もっと大学院でしっかり数学を学んでおけば良かったという気持ちもあります。
ただ,こういうルートでなければ,数学の研究者にはなっていなかったと思います。

Q. 先ほどの,この研究室ではトポロジーが研究できるとか,そういった噂はど
こから聞くんですか?

「数学セミナー」や「数理科学」などの雑誌で名前を見たり,江口先生のウィッテンの仕事の解説等を読んだりして,そういう研究をやっている人がいるんだという事を知りました。学部の頃にモース理論の本を読んでいて,これはすごいなと思っている所に「数理科学」に記事が載っていて。丁度僕が大学院に入ったのは,「位相的場の理論」というものが華やかになりはじめた頃です。こういう事ができるんじゃないかと考えた時には,形になった論文が雑誌に載っていたり。僕の場合は,自分の興味がある事と時代の雰囲気が運良く合致していたという感じがありました。僕より前の時代の超弦理論というものは,どちらかというと数理物理の中の幾何というよりは,代数の色彩が強くて,僕はあまりそちらには興味が無かったんです。

Q. 現在はどんな研究をされてますか?

超弦理論関係で,トポロジーの理論と合わさった「位相的場の理論」です。超弦理論は,リーマン面の理論だと思っても良いんですけれど。リーマン面のモジュライ空間のトポロジーというものを扱う,というのが「位相的場の理論」です。その辺の研究をしています。

Q. どんな大学院生に来て欲しいですか?

まず,幾何に興味があって,特に空間に対する感覚を持っていると良いですね。もちろん物理の知識があったり,超弦理論に興味がある人は大歓迎です。
そうでなくても,幾何学,特に大域的トポロジーに興味がある人は面白い事ができると思います。

Q. 今までにどういう学生を指導されましたか?

基本的には「位相的場の理論」についてですが、トポロジー的観点からの修論を書いた人もいるし,物理的な観点から修論を書いた人もいます。

Q. 先生から見て,大学院教育の意義とはどういうものですか?

学部の時と言うのは理論の骨格しか習わないので,それに色んな肉付けをするのは大学院だと思います。もちろん,学部で基礎的な骨格をしっかり身に付けているというのが前提ですけれども。
院に進むと,より具体的な題材に触れる事ができて,学部の時にならった骨格を活かせる勉強ができる,生きた数学に触れるチャンスがある。
修士論文でその辺の目的は達成されると思いますし,博士に行く時はこの先研究者の道に進むかどうかという所が問題ですね。研究者に進むなら,自分で新たに課題を見つけていく能力,意欲が必要だと思います。

Q. 北大の大学院に進学を考えている学生に,アドバイスはありますか?

北大の数学教室の良い所は,きちんとした知識が得られるという事です。例えば幾何学とか大域的であるトポロジーの知識というものは,工学系とか物理とか,使う機会が多いと思います。知識の骨格をちゃんと理解して,運用できる・教えてもらえる場所です。
僕の印象ですが,数学の独学というのは,相当難しくて誤解も多くなると思います。数学の先生方はその辺をよく解っていらっしゃる方が多いと思うので,講義を受ける事によってかなり勉強が進みます。

Q. 物理を目指している学生が数学に来る場合のアドバイスはありますか?

僕自身がそうなんですけれど,そうですね,本人に意欲があれば可能であるし,チャレンジしても良いのではないかと思います。物理の学生でも,まわりに流されず,自分の興味ややりたい事を把握した結果,数学に方向転換するのは良いと思います。

2006年(平成18年) 4月インタビュー実施