泉屋周一(教授・幾何系)

Q. 出身高校と出身大学を教えて下さい。

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出身高校は札幌市立旭ヶ丘高校です。出身大学は北大の理学部数学科です。

Q. 最初にまず,どんな大学生だったかお聞きしてよろしいでしょうか?

一所懸命数学やろうと、自主ゼミをやってました。僕が1年生の時にちょうど、前田先生林先生が大学院生で「自主ゼミをやるから来い」と言われて。その頃修士の学生が主催して1年生向けの自主ゼミをやりますとアナウンスされてました。それじゃそれに出ようかと思って行ったんですが、半年位で挫折して…だけど自主ゼミは面白かったので友達と一緒に、先輩抜きの自主ゼミを教養の2年間はやってました。学部に来てからも、一所懸命自主ゼミをやってました。

Q. 数学を勉強しようと思ったきっかけは何ですか?

高校生の時に。それまでは理科系は好きだったけど、生物とか天文学が好きで、高校1年の時は天文学がやりたいと思ってました。だけど丁度あの頃学園紛争が盛んで、高校にも波及してきた頃で、先生と色々やりあったりして。学生間でも色んな軋轢があって、学生運動をしていても人間関係が嫌になって、それでなるべく世の中と関係ない事を勉強したいと思ったのが(笑)最初のきっかけですね。ちょっと逃避みたいに一所懸命数学を勉強してました。

高校2年くらいの時に3年生に混じって偶然模擬試験を受けて、数学の成績が良かったんです。それでもしかして数学が得意なのかもという気になって、将来数学をやりたいなと思いました。天文とか昆虫採集も好きだったんだけど、観測で徹夜したりとか体力が必要なものは自分には向いてないんじゃないかと思ってあきらめました。

Q. 研究内容について簡単にお願いします。

大きな意味で言うと、幾何学をやっています。その中で、特異点論という分野を研究しています。

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特異点の例としては、凹面鏡に光を反射させると一点に光が集中するんですけど、凹面鏡が歪んでたりすると一点に集中しないで色々な形になる。尖ったり曲線になったりして出てきます、それが特異点論を使うと大体の場合、尖った点が必ず出てくる事が証明できる。それができたから何になるんだと言われそうだけど、例えばアインシュタインの重力レンズというものは、レンズの一種で、星の光が重力によって二重、三重に歪んで見える。二重、三重の境目がさきほど言った尖った点のことです。

あとは光ではなく音波で考えると、水中ソナー等海底探査で音波を海中のものに反射させて調べる時に、音波も集中してできる変な所がでてきて、受信器がうまく解析できなくなってします。それを解析する方法を調べるために特異点論を使います。

幾何学は元々は図形の数学だったんですが、途中で非ユークリッド幾何が発見された後からは、我々の属している空間自体を研究する事も幾何の分野になりました。そういう意味で幾何の分野は、空間の中に入っている物の形を調べる事と、空間自体の構造を調べる事の2通りあります。特異点論はその両方に関係していて、とんがったりしている部分を研究することです。20世紀前半までは、そういうとんがったりしたものは数学で扱われなかった、特異点のないものが研究されていました。しかし20世紀の中頃からは研究できるような背景や道具が揃ってきて、僕が研究を始めた頃はそういうものが盛んになりはじめた感じです。

特異点論は前世紀までは、どちらか言うと代数幾何の分野だと思われていたんだけど、僕が考える特異点論は微分学・とくに微分積分の直接の一般化であると思います。微分学は1〜2年生の教養で習う時は、関数の二次のふるまいまでで、極大とか極小を調べるものですよね。三次以上の情報をちゃんと調べようとすると、微分積分では扱えなくなってしまうんです。それを三次とか四次とか高次まで含めてもうちょっと調べようというものです。それを調べる為には、二次だといわゆるヘッセ行列が退化している時を調べようとすると、もっと色んな道具が必要になってくる。そういう面が多分、代数幾何的な特異点とは違うということでしょう。

特異点論は微積分学の直接的な拡張だから、微積分学が解析や幾何に応用できたように、もっと研究を進めると、当然のように応用が広がってくるはずです。何年か前は微分方程式への応用をしてました。最近では数学内では微分幾何学という分野に、宇宙論ではブラックホールの形状を調べたりするのに応用したりしています。

Q. 先生が担当している学生は何人いますか?

博士課程が全員卒業してしまったので、修士課程が2人です。

Q. 先生が指導されている修士の学生は,就職先はどのような所ですか?

色んな人がいて去年卒業した人では、一人は銀行、1年浪人して公務員試験(法務教員)を受験中の人がいます。今まで僕が担当した中で、二人全盲の学生がいて、一人はNECで音響関係、音声入力研究の仕事をしています。もう一人は、健常者の高校で教員をやっています。

Q. 先生のもとに進学を考えている学生に対して,メッセージや心構えはありますか?

基本的には、幾何学が好きであれば良いです。先生は皆そう言うでしょうが、自分でものを考えてほしいということ(笑)と、特に修士で卒業する人は、修士論文で何かオリジナリティのあるものをやってほしいです。それは僕も手伝わなければならないんですけど、博士課程に行く人は多分その後もそういう研究をやって行くのが義務だから、あまり強くは言わないんです。でも修士課程で終える人は多分そこで数学とサヨナラすると思うので、とりあえず数学はどういう態度で研究するのかを身に付けて卒業していってほしい。基本的なものでも失敗しても良いので、何か誰も考えなかった事を論文にしてほしいです。

Q. だいたい皆さんオリジナルな事を論文にしていますか?

そうですね、結局色々僕の側からアドバイスする面が強いんですけれど(笑)。いままで何とか幸運にも、何か見つかってオリジナルな事を論文にしています。特異点論はわりあい現象論的な面が強くて、大理論をがっちり勉強してそこから進まなければならない、という事はないんです。背景を理解するには色んな勉強をしなければならないんだけど、技術的な面では微積分は1〜2年生の教養で習うことだけで、新しい事がポンと見つかったりします。例えば、今まで知られてなかった特異点が発見できれば、それはすごく新しいという事になります。

Q. では、微積分とヤル気さえあれば大丈夫ですか?

そこまで到達する為には色々勉強しなければならないんだけど、最終的には微積分だけでできます。もちろんもっと難しいものもありますけどね。

Q. 先生から見て,大学院教育の意義とはどういうものですか?

学部の4年だけだと多分、何か新しい事を考えてそこから何か生み出すという事は無理だろうと思います。それに2年間積み上げて、数学を使って自分の力で、世の中の誰も知らなかった事を発見できたという事はその後の自信になると思います。その過程で身に付けた「問題を解決するための方法論」は、社会に出てからも役に立つと思います。

Q. 数学に進学しようか迷っている学部生に対してメッセージはありますか?

数学科で良かったなと思うのは、僕が学生の頃の数学の先生方は、物事にとらわれない、発想が自由だった事です。僕が教養部から理学部数学科に進学したときに先生方が、「数学科では何をしちゃダメという事はないんだから、好きな事をしなさい」というような事を言ってくれました。数学科では何でもできるというのは遊べと言うことではなく、高校までの数学は割とキチキチと縛られているような感じがするかもしれないけど、本来の数学というものは発想がまったく自由です。ひとつは他の自然科学は自然現象にぜったい沿っていかなければならないけれど、数学は必ずしもそうではなくて、もちろん自然現象をお手本にして色んな研究をする面も強いけれど、そこから離れても、離れなくても良いんです。すごく自由度があるというのが魅力だと思います。

Q. 最後に、北大の先輩としてメッセージはありますか?

いまここのスタッフで、助手を除いたら北大出身者の中で私が一番若いんですよね、もう50歳を超えているのに(笑)。採用というのは業績とか色んなものがからむので一概には言えないんですが、何かちょっと寂しい…仕方ないのかなという気はしてるんですけど。一所懸命努力してここに残れとは言えないけど、数学者になるぞという意識を持った人が、もっと沢山来てほしいです。たぶん僕らの時代とも状況が違うし、あまり調子の良いことは言えないけど、一所懸命やるぞという気持ちがあれば未来は何とかなるんじゃないかなという気がします。

これも時代背景が違うと言われればそれまでですが、最近の学生さんは先生に依存しすぎる面が強いので、自分で何かやるぞという気持ちを持ってほしい。ここは東京とか関西から距離的に離れているので、流行にとらわれず、自分が新しい分野を打ち立てるんだという気概をもって研究者になってほしいです。僕もなかなかできないんですけど(笑)。

2006年(平成18年) 5月インタビュー実施