戸松玲治(准教授・解析系)

①出身高校・大学を教えてください

岐阜県土岐市出身です。多治見北高等学校を出てから、
東京大学理科I類に入学して、理学部数学科を卒業しました。

②数学科を選んだ理由は?

大学の3年生から希望通り数学科に進学しました。物理にも強い興味を持ちましたが、勉強しているうちに物理よりは数学の方が自分には向いているかなと思いまして。感覚で解らなくてはならないことがなかなか腑に落ちなかったり、大体等しいとしていた量が突然等号になったりとか、いろいろと違和感を覚えてしまいました。物理学科への進学に要求される成績が高かったのも、進学しなかった理由として少しありますけどね。

③大学生のときはどんな学生でしたか

まぁバランスが取れていたのではないかなと思います。サークルもそれなりにやっていましたし、勉強もちゃんとやっていましたし。2年生が終わるまでは物理とか外国語や文系の科目の勉強もあって忙しかったのですが、3年生に入って毎日数学漬けになり幸せに感じたのを憶えています。もちろん数学もいろいろと勉強することがあって忙しいことには変わりないのですが。
大学の4年間は文京区にある岐阜県の県人寮に住んでいました。そこで100人位の所帯で暮らすわけです。夜中までうるさいこともあったり、エアコンが食堂にしかないとか、快適とは言えなかったけど、いろんな友人ができて、楽しい4年間を過ごすことができました。居酒屋に行ったり、球場に行ってビールを飲んだり、水泳をしたり、セミナーの勉強をしたり、明け方まで仲間とゲームをしたり、そんな感じでした。

④大学院に進むきっかけは?

大学院も東大でした。研究者としてやっていけるかどうかは不安でしたが、大学院を出るのは普通だと思っていたので、明示的なきっかけがあったわけではないですね。

⑤昔から数学が得意だったのですか?

いえ、新しい概念が出てくると、ちょっと面食らうので、それであまり頭に入ってこない時はちょっと落ち込んだりはしますけどね。小学校のときは割合がひどく苦手でした。何を何で割ればいいのか分かんない。中学校に入ると、負の数や文字式などで早々につまづいて困っていました。それでも勉強しているうちに段々と手が動くようになってきて、中学を卒業する頃には高等数学とか物理学に憧れを抱くようになりました。その頃に学者を将来の職業とすることを決心したように思います。
大学に入ってからも線型代数は難しいなあと思っていました。でも授業に出るのをやめて図書館に行ってひとりで勉強してみたら、本って丁寧に読めば解るように書いてあるもので、わりかし解るんですよね。で、授業に復帰すると授業より進んでいて、なあんだと、それで少し自信になったり、そういうことの繰り返しでした。

⑥どのようにして数学者になりましたか

修士論文は新しい結果だったわけですけど、勢いにまかせて書いたところがありました。時間も時間で半年程の期間に書き上げなくてはならなかったし、それは仕方のないことだったのかもしれません。しかし、それは続いて沢山論文が書けるような代物ではなくて、数学者として生きていけるかどうかという不安が常にありました。博士課程に入ってもいろんな有名な論文とかを勉強できるんですけど、それを勉強したからといって自分の課題にすることができない。つまるところ問題を見つけることがすごく苦手でした。今でもそうなんですけどね。そんなこんなで博士1年の時はけっこう悶々とストレスを抱えながら生きていました。しかしいろいろやっているうちに、1年ぐらいかけて博士2年の時にいい論文を書けて、研究者としてやっと一歩踏み出せたかなと思えました。それで大学院を出てから、COE研究員を1年、PDを1年半やって、大学に職を得て今に至っています。

⑦ご自身の研究内容について

なかなか絵に描けない分野なのでちょっと説明が難しいのですけど、「作用素環論」という分野を他の分野の人に説明する時に使う2つの例があります。

一つは、可換C*環というのは位相空間の上の連続関数環になるのだということ。だから非可換な作用素環は、仮想的な、可換な、空間を研究しているんだという説明で満足してもらうというのがまず一つです。ちょっとキツネに騙されたような感じですが、非可換幾何学のスローガンです。ちなみに僕はその手のことはあまり知りません。

もう一つは、行列を使った説明です。行列環は作用素環ですけど、そのサイズをだんだん大きくしていき、小さいサイズの行列を大きいサイズの行列の中で見る。でも、単にその行列全体を見ているだけでは荒い感じなんですよね。そこで何らかの位相で閉包をとってみると、完備性をそなえた対象になり豊かになる。

基本的道具は関数解析と代数構造です。技巧的な不等式評価を繋げていって最終的に誤差をゼロにして、等式にもっていくという。そこがけっこう魅力的だと思います。どれもそんな内容なのかというとそうではないですけど、例えばそういうところが醍醐味の一つです。いろんな分野にも関わっていて研究に多様性があるのもよい点だと思います。

⑧数学科へ進学したい、進学を視野に入れている大学1年生にアドバイスをお願いします

数学的な知識も必要ですけど、どちらかというと人間性の方が大切かなと思います。まず一人で閉じこもらずに人とよく話すこと。本を読めば、原理的には一人で勉強出来るといえば出来ますが、けっこう危険ですよね。理解したつもりでも、本当は見当違いの誤った理解の仕方をしていた、なんて経験はいくらでもあります。だからまずいろんな人と話せる能力が大事です。効率的に情報収集もできますしね。とにかく明るい感じでいて欲しいと思います。
また、いい意味でのずぶとさも大事です。自分よりできる人を見ても気後れしないとか,数学が分からなくてもしょんぼりしすぎない。そういうことに耐えられるようになって欲しいです。学部の数学は始めのうち分からなくても,とにかく続けているうちに結構分かるようになるものです。ちょっとやそっとのことではあきらめない根性を身につけて欲しいと思います。

2013年(平成25年) 1月インタビュー実施