「自由な発想を鍛えよう」久保英夫さん(1991年修了)

北海道大学大学院理学院数学専攻 教授
(執筆時の所属:静岡大学工学部)

数学科をめざしている皆さん,あるいは,数学に関心をお持ちの皆さんに,数学と私の出会いについてお話ししたいと思います。
かれこれ10年程前のことになりますが,北大に入学した当初の私は,数学は受験を乗り切るための一つの武器のようなもので計算力があれば良いとさえ思っていました。ところが,非常に論理的なところから出発している微分積分の講義を聞き,最初のカルチャー・ショックを受けました。

その論理というのは,感覚的に言うなら,アキレスとカメの話をどう理解するかというような類のことです。私にはその理屈がどうしても納得できず,とあるレポートにその旨を質問として書きました。すると「口頭で質問しに来るように」と記されたレポートが戻ってきました。何かお叱りを受けるのだろうかとビクビクしながら担当のK先生の研究室を訪ねたのですが,そんな心配は全く不要でした。むしろ私の言い分をしっかり聞かれたうえで,私が独りよがりに考えている部分を鋭く突いてこられました。今にして思えば,これが数学における議論の型式だったのだと思います。

このような議論を通じて確立されていく数学の理論は,発想そのものには自由を与えるが,その中に矛盾を抱えるようなものは理論としては認めないという精神に支えられているのです。このような観点は,工学系は勿論のこと,他の理学系の学問にも見られない,数学に固有なもののよう思われます。

ところで,数学のユニークさそれだけにとどまらず,例えば,その時間割にも現れています。2年次後半からは,平均して週に3日,午前2時間の講義と午後2時間の演習というとてもゆったりとしたぺ一スで勉強できます。もっとも,4枚の黒板をフルに使って展開される2時間の講義に慣れるまで,始めは閉口するかも知れませんが。それでも,演習問題の解答を考えながら,広い北大構内を散歩したり,芝生で寝そべったりするのもなかなか良いものです。現在,私が数学の研究を続けていられるのも,ここで述べたような経験をすることができたことによる部分が大変大きいと思っております。K先生および北大の数学教室の皆様に感謝したいと思います。